日陰より愛を


強く掴まれた肩にはっとして気がつくと、いつの間にか前島さんが私を心配そうに見つめていた。


「葵…………?」


大好きだった声に名前を呼ばれてそちらを見ると、動揺したりょうと、完全に顔色を失った社長が目に入った。


『榊原碧………?』
『母親ってどういう………』
『社長が父親?
いったい何の話だ……?』


周りからはひそひそと今の出来事について噂している声がした。


その瞬間、私は全てを冷静に考えられるようになった。


ここはりょうの事務所のロビーで。


私が取り返しのつかないことをしてしまったということが。


それでも、私は混乱していたのだろう。


「っ………」


「っ、おい篠崎っ!!」


「葵っ!?」


何も考えずに前島さんの手を振り払って、事務所を飛び出していた。


目的地も無いままだったが、とにかくここから離れたかった。


りょうにだけは、知られたくなかった。


私が、どれだけ邪魔な存在かなんて。


産まれてきてはいけない人間だったなんて。




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