日陰より愛を


「……私は、お前に同棲している恋人がいると聞いて別れるよう説得し、金を渡すよう命じた。……まさかそれがあの子だとは思わなかったがね」


社長はそう言って、悲しみをたたえた目で遠くを見た。


でも、悪いけど俺は同情することはできなかった。


「……つまり、相手が誰かも、どんな人かも知らないで別れさせたって言うんですか」


「……そうだ。この世界ではそういうことはさほど重要ではないからな」


俺は反論することもできず、強く手を握りしめた。


爪が食い込んで痛みが走る。


でも、葵の受けた傷はこんなものじゃない。


胸が締めつけられて、息が苦しかった。



今なら全て理解できる。


お金を受け取ったのはきっと、俺のもとに戻れないようにするため。


自分が悪役になることを承知で受け取ったに違いない。


――――優しすぎる人だから。




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