悪の皇女
悪を行く皇女様





‐episode‐





今は亡き皇女様はある日、知ってしまったのです。


祖国が幾つもの諸国と密約を交わしていたことを。


友好条約とは名ばかり。利害一致する国同士で結ばれた同盟。


大国である祖国を筆頭に、武力にものを言わせ世界征服を謀ろうとしていた。世界革命を起こし“覇者”となるべく暗躍する同盟。


このままでは起こりうるであろう世界対戦を止めるために皇女様は悪魔に魂を売ったのです。


外の敵を騙すならまず中の敵から。いかに己を“裏”に相応しき者だと思わせるか。頻繁に情報を得るために“悪”として振る舞い、誰しもが己を疎遠するように“悪”を振り翳した。


――‥なんて所詮はただのお伽噺。

幼き皇子は真っ白の長い髪を持つ御后様に絵本を見せる。



『母様。このお話の皇女様は本当は優しい人だったの?』



そう問われた御后様は絵本に描かれた青い髪を持つ皇女様を見つめる。御后様の脳裏に映るのはいつも気高く凛とした皇女様。
今は亡き大国。皇族の冒した過ちを皇女様は皇族である自らの手で葬った。追い出し筈の民を救い、暗中飛躍していた皇女様と裏腹にずっと御花畑にいた己を御后様は自嘲する。
そして誇り高き皇女様の絵を細い指でなぞり微笑んだ。
はらりと金色から滴る雫。



『それは皇女様にしか分からないわ。』



強欲で傲慢でありつつも、気高く散った皇女の名はイザベラ。
彼女の名は何十年たった今も語り継がれている―――悪の皇女と。



【完】
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