ウシロスガタ 【完】

幸せな場所

「よし!!」



溜まった吸い殻を見ながら携帯をポケットにしまい、俺は車に乗り込み自然と助手席に目をやった。


“冷夏の特等席”



それを見ながら俺の顔は確かにニヤツイている。



運転席の窓を全開にして、冷夏の大好きな曲をかけボリュームを上げた。



“冷夏の姿を一瞬だけ見れる”



それだけで、俺の心は踊り、まるで数十分前の俺とは別人だった。



アクセルを踏む足に力が入り、俺の車のスピードが上がる。




思い出していた……




あれから長い月日は経っていないけど、



いつからか欲張りになった俺は、欲のなかった頃の俺をどんどん押し潰し、どんどん消されかけていた。



そう、今のこの感情は確かに前にもあった。



冷夏が店の帰りにコンビニにいると言った時、



まだ風が心地よく
夏の香りがしていたあの時……。



俺は胸のあまりにもの高鳴りに苦しくなりながらも、一生懸命、冷夏の姿を探していた。



なんて言うのだろう……



上手くは言えないが、あの時と同じなんだ。



そう、確かに俺は……



あの頃の“好き”だけの気持ちで突っ走った、俺になっていた。



懐かしい気持ちがなぜか、心をおどらす……



そんな自分の顔をバックミラーに映し、少しだけ笑ってみた。
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