私は彼に愛されているらしい2
一瞬、何を言われたか分からずに固まってしまったが、すぐに意味を理解した有紗は勢いよく顔を上げてみちるの方を見た。

みちるは、感情の読めない表情で有紗を見つめている。

「結婚前提で付き合っていたとしても、必ず結婚しなければいけない訳じゃない。有紗は自分のスピードを見失っちゃダメだよ。」

「見失う?」

「有紗の歩んでいく速度に合わせてくれない人だったら…ちょっと考えてもいいんじゃないかな?た とえ有紗が悪かったんだとしてもね、そこを一緒に乗り越えられる人だったらいいけど。もしケンカ別れしそうならそこまでの縁だってことだよ。」

それは愚痴をこぼした後の投げやりなアドバイスではなくて、本当に心配してくれている言葉なのだとすぐに分かった。

優しく落ち着いた声で、エアコンから出た暖かい空気と共に体の中に染み入ってきそうな言葉に有紗の心がくすぐられる。

「…一度逃げたら癖になるって本当ですね。前にみちるさんは逃げるのが可愛いって言ってくれましたけど、実際は卑怯なだけですよ。」

「逃げるのは防衛本能でしょ?逃げること全てが駄目だとは私は思わない。」

「私の場合はまあ、逃げすぎに入るんですかね。よく舞さんに怒られてます。」

「じゃあ駄目だ。」

昼の休憩のときを思い出してみちるは視線を上に流し吐き捨てるように肩を竦めた。みちるも舞には敵わない、それが分かって有紗は思わず笑ってしまう。

「私逃げすぎて、東芝さんのことが好きだったのかも!?とか迷い始めたんですよ?」

「ええー?」

「沢渡さんにそう言われて。」

「沢渡さんって…あれでしょ?距離感というかなんていうか近い人だよね?」

「あはは、そうですね。近いです。」

「そうよね。やっぱりそうよね。」

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