私は彼に愛されているらしい2
まだ若い有紗を可愛がり、いつの間にか愛称として持田をいじった、もっちーと有紗を呼ぶようになった。

癖なのかわざとなのかは分からないが距離感の近い関わり方に少なからず有紗は苦手意識を持っている。

「沢渡さーん。」

廊下を歩く人物から親しげに声がかかり沢渡は手を挙げて答えた。

「おう。帰ってきたか。」

その相手はみちると同じ室の加藤設計士だった。そんなに関わりがないが舞の話を聞いて有紗は彼に対しても苦手意識を抱いていたのだ。

舞の話とは仕事の進め方や取り組み方での文句が殆どなのだから仕方がない。

「お話されないんですか?」

声をかけるだけかえた加藤はそのまま自席へと戻って行った。

「ああ。打ち合わせが昼まで食い込むかもって言ってたから帰ってきたっていう連絡でしょ。」

「お昼は加藤さんと食べてるんですね。」

「もっちーは舞さんと清水さんでしょ?」

室が違うみちるとは関わりがないからか親しい呼び方をしなかったことに有紗は一瞬驚いた。てっきり関わりのない人でも愛称で呼ぶのだと思い込んでいたらしい。

「清水さんって竹内の彼女だよね。あの二人も結婚すんのかな。しかしどうやって竹内はあの魔性の女を落としたんだろうな。侮れない男だよなあ。」

その後も竹内に関してなにやら言っていたようだが有紗には聞こえてこなかった。

何故なら沢渡の言葉で有紗には思い出してしまったやっかいな案件があったからだ。業務に追われて忘れてしまっていた存在。

「もっちー、お迎えだよ。」

沢渡に肩を叩かれ有紗は我に返った。そこには手を振りながら歩いてくるみちるの姿が見える。時計を見れば既に昼休みに入っていたことに気が付いた。

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