私は彼に愛されているらしい2
2.友達から恋人へ

1.まさかの知恵熱


“明日の昼空いている?”

有紗も忙しかったが、やっぱり何事も無かったように大輔からの連絡はなかった。

忙しさに追われながらも何か来るんじゃないかとびくびくした月曜日、ちょっと首を傾げながらも構えていた火曜日、怒りを覚え始めた水曜日、自分ばかり振り回されて面白くない木曜日、先輩たちに冷やかされながらも吐き出せたことで気持ちが軽くなった金曜日。

とはいえ問題は片付いていない。

みちるの予想通りウィークデーの最終日、前回と同じ時間帯に大輔から連絡が入った。

図面をすべて提出できた解放感から何も気にせずメールを開いてしまったことに自分を呪ったが見てしまったものは仕方ない。

土曜日は基本的に仕事の疲れを癒すために予定は入れず、極力日曜日に動くスタイルをとっていたから空いている。

つまりは大輔の誘いを断る理由としては気持ち的なところになってしまうのだが、無言で悩む有紗の横で片付け作業していた舞が釘を指すように呟いた。

「逃げるんじゃないわよ?」

画面を見てもないのになんという勘の鋭さだろうか。

体を揺らし舞の方を振り向いてみるが、舞はいそいそと片付けをしている。疲れたしやっぱり無理だと泣きそうな顔で駄々をこねようとした矢先また言われたのだ。

「1回逃げたら癖になるからね。」

昼同様、またも容赦なく有紗の胸に言葉が突き刺さる。

「…はい。」

とりあえず返信は後回しにして有紗も片付け作業に戻ることにした。データの整理、不要図面の処分、気を引き締めてしっかり片付けないと、手元にあるものは機密情報ばかりなのだ。

「東芝さん、忘れ物です。」

「ああ、ありがと。」

珍しく置きっぱなしになっていた手帳を持って東芝に声をかけた。さすがに気を張っていた東芝もようやく解放されたように疲労の色を出している。

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