私は彼に愛されているらしい2
有紗と同じ高校と大学に行っていた大輔にとってその出来事は信じられないものだった。有紗の学歴は自分のものと同じ、大輔の怒りを含んだ声は有紗の気持ちを昂らせた。

まっすぐ前を向いたまま口元には力を入れている。

「…それで?」

たった今起こった出来事に怒っているというよりも、もう少し複雑な感情が見えた気がして大輔は声を落として尋ねた。

少しの間をおいて震える吐息をこぼした有紗が口を開く。

「同期にいるの。高卒でコネ入社の子がね。でもその子は一生懸命に仕事頑張ってるし、そこらへんの大卒なんかより仕事できる時だって沢山あるの!なのに…何も知らないくせに想像だけで仕事できないとかコピーしかやらないとか…っ本当にムカついて!!」

「そりゃムカつくな。」

「しかもそいつら皆うちの大学より偏差値低いし会社としてもランク低いし、話してても何か低レベルで余計に嫌気がさしちゃってさ。自分をどこに置いてるのか知らないけど人を軽々しく扱うことに優越感を抱いてるあたりが最悪。」

「…成程。」

「最初から適当な常套句で話を盛り上げたつもりでいてさ、乗ったふりして答えていたらもう自分のものになった気でいるし。っていうかその前から女なんか従って当たり前、落とすのなんて朝飯前みたいな雰囲気が気持ち悪いのよ。常套句だってレベルの低い丸分かりなナンパ文句。」

饒舌に続ける有紗の言葉に大輔は相槌さえ打たなくなった。しかし気にせず有紗の口は止まらない。

夜の街をすり抜けていく車は次第に見慣れた景色の中へ入ってきた。

「本当、最悪。千春には悪いけどぶち壊してきちゃった。しかもやり逃げ。」

「へえ。」

おそらく話の締めくくりであろうことが読めてようやく大輔は締めの相槌を返した。そうしたところで到着したのは有紗のアパート、道路の脇に停車した大輔は少し考えた後に有紗の方を見て口を開く。

「有紗、この前読み損ねた本貸してほしいんだけど。」

「本?いいよ。」

「じゃあ取りに行くわ。」

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