私は彼に愛されているらしい2
行先掲示板を見ると工場名がかかれてあり、どうやら昼前には戻ってくるようだ。

「舞さん、おはようございまーす。」

少しばかりの燃えカスを抱いたままですごすごと端末の電源を入れに行くと近くにいた君塚があいさつに寄って来た。自由席制のCAD端末エリア、今日のお隣さんは君塚なのだと舞はにこやかにあいさつを返す。

美男子を近くで眺められるのは若さの秘訣だなと心の中で微笑んだ。

「おはよ、君塚くん。」

「持田さん、良かったじゃないですか。」

「ああ、聞こえてたの。そうよね、そう思うわよね。」

背もたれに体を預けて椅子が軋むくらいに体重をかける、そして舞は鼻から長い息を吐いたかと思うと噛みしめるように呟いた。

その様子は明らかに明るいものではない、含んだ反応に君塚は首を傾げた。

「…意外ですね。喜んであげないんですか?」

「うーん、そうよねえ。」

「何か心配事でも?」

君塚の言葉を受けて舞の眉間が寄っていく。それはつまりそうであると言っているようなものだった。

しかし今考えても仕方がないと舞は自分の中でケリをつけて気持ちを切り替える。

「うん、まあ…ね。杞憂だといいんだけど。あ、みちる!おはよ。」

「舞さん。おはようございます。」

通りすがりに手を振りながら舞に答えると君塚に会釈をしてみちるは自席の方へと歩いていった。

なんてことない繰り返されているいつもの風景だが、舞と君塚はみちるの背中を見つめながら含み笑いで息を漏らす。

「…あっちも何かありそうですねー。」

「…そうね。」

お互いに首を傾けて寄り添うように言葉を交わした。

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