あの時も、これからも

風がそよぐ秋2

視線の先に広がる建造物は、日本のものにはない厳かな雰囲気を放っている

見上げれば澄んだ空が、どこまでも続いている

行きかう人々もその風貌が日本人とは明らかに異なっている

ドイツに降り立ったしるふは、その雰囲気を肌で感じ、ふ、と息をつく

実は外国に来るのは初めてだ

目的がはっきりしているから来れるけど、そうじゃなかったら海外なんて来ない、

だって一人で海外旅行は怖いじゃないかと思いながらタクシーの並んでいる場所まで歩く

ドイツで話されているのはドイツ語だけれど、英語が世界共通語なのでどうにかなりそうだ、と空港ですれ違った英語圏の人々を思い出す

こういう時果たして自分のつたない英語で通じるか、ということは問題外だ

海斗のように流暢な英語を話せれば心配することなんてないのだが、日本から出る予定のなかったしるふが身に着けたのは、せいぜい受験用と学会用の英語だけだ

自分の頭に入っている単語は、日常のものよりもビジネス英語、つまり機器の名前とか体の部位の名前とか

「そもそも海斗がドイツに行くなんて言うから悪いのよ」

憤然と歩くしるふは、ばっちり日本語でつぶやく

待っているといったのは自分だったような気もするが、そんなこと知ったことじゃない

人間は大概自分の都合のいいように物事を考えるようにできているものだ、と変に納得しながらしるふは、タクシーに乗り込んだ
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