あの時も、これからも
あの時は恥ずかしくてちゃんと見れなかった海斗の顔も瞳も今ならかすかなときめきとともに真っ直ぐに見ることができる

言いたいことも言える

あの頃とは随分と変わったなーとレストランの前に一人たたずみながら回想にふけった

この一年は簡単につかむことのできないその温もりも、ずっとそばにあったからこそ薄れかけていたその大切さを愛しさを再確認する日々だ


「こんにちはー」

カラン、とドアに付いた鈴が乾いた音を立てて揺れる

ひんやりとした店内に足を踏み入れたしるふに店内にいた朗らかな女性は、あら、とつぶやいてから微笑む

「いらっしゃい、しるふちゃん。久しぶりねー。今日は一人?」

いつものエプロン姿で立つ秋穂にしるふは微笑み返す

「うん。海斗は只今長期出張中でして」

「あら、また?」

海斗君も大変ねー

小さな店内には今一組のカップルしかいない

窓辺の席で二人でケーキを突きあっているその姿に、自分と海斗の姿を重ねてしるふはふと微笑む

「そう、今度はどこにいると思う?」

いたずらを仕掛けた子供の様に笑いながらしるふは問う

「えー、何何?ついに本州から出ちゃった?」

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