スイートペットライフ
12.  救世主は誰?
忙しかった毎日も少し落ち着き、蝉がせわしなく鳴くなか世間は夏休みに突入していた。

業務も少し落ち着いてきて、残業する日も減ってきている。

顧問先によっては、通常営業しているところも多いので夏休みは交代でとるのがうちの事務所の慣例だ。

私は10月に入ってから夏休みをとることにして、人のまばらなオフィスでのんびりとパソコンで7月に決算を迎えた会社の決算資料をまとめていた。

人が少ないオフィスはトラブルがない限り快適。電話の本数も普段から比べると格段に少ないし。

佐和子先輩は旦那様の実家に帰省して“いい嫁”を演じてくるそうだ。それはアカデミー主演女優並みの演技力らしい。

諏訪君も同窓会とか地元の友達との約束があるらしくて実家に帰るって言っていた。

「実家か…」

今まで私の実家はママがいるあのマンションだった。

今はもう他の誰かが住んでいる。私が今帰るのは、大倉さんと住むあのマンションだけだ。

今月で3ヶ月目。ますます住み心地の良くなるあの部屋に少々危機感を抱き始めた。

ずっとママと二人で暮らしてきたけれど、ママにはいつも彼氏がいた。だからと言って私をないがしろにしていたわけじゃないし、むしろママ一人であそこまでよく手をかけてくれたほうだと思う。ママに彼氏がいたから、ママ自身の心の安寧が守られていたような気もする。

だけれども、ママの愛情が分散されていた感は否めない。

もし「彼氏と私どっちが大事?」って聞いたら「両方」とママは答えるだろう。だってそれが本当の事だから。娘にだって嘘はつけない。それが私のママだ。

だけど大倉さんは、彼の全部で私を大切にしてくれているのが分かる。

それはもちろんペットとしてで、困った愛情表現や変態チックなこともあるけれど、全力で大切にされる心地よさをこの3ヶ月で覚えさせられてしまった。このままでいいわけない。


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