かっこ仮。の世界。


清明の母である妖狐葛葉は、先の帝の執拗な執着の末、騙し打ちのような手段で捕らわれた挙句、その命を奪われ、美しい白い毛皮を剥がれた。
その毛皮は、内裏の宝物庫に奉納されたという。


清明はその毛皮の返却を何度も要請し、先帝は清明が自分に仕えることを条件に返却を約束したが、結局のところ先の帝はのらりくらりとその要請を無視し通した。


故に、清明も玉若も先帝に対する心象は最悪だった。


「まあ良い。清明が構わぬのなら妾が口を挟んだとこで、何にもならんからの」

「わかっているならいいよ。まあ、僕も母の形見さえ返してもらったら、さっさと隠居するつもりだよ」
「隠居できれば良いがの」


しっしっしっ、と酷く意地の悪い笑みを浮かべて、玉若は出てきた時同様にその姿を一瞬で消した。


残された清明は、何事もなかったように再び星読みに集中した。


けれどその胸の裡は先程とは違い、ずいぶんと乱れており、暫くして、清明は自身の動揺に星読みを諦めた。


こんな精神状態では、読み違えを引き起こすだけだ、と。


< 33 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop