ロング・ディスタンス
 食後のデザートに、長濱はカスタードクリームが入ったイチゴのミルフィーユで、上にホワイトチョコのソースがかかったものを頼んだ。結構濃厚なスイーツだ。
「本当に甘いものが好きなんですね」
「うん。これが何よりの楽しみでね」
 向かい合わせに座っていて気付いたが、長濱は実に美味しそうにものを食べる。これまで神坂とゆっくり食卓を囲んだことなどなかったから、人と食事をするという時間と空間の意義を彼女は今改めて感じた。これは人と人が付き合いを楽しみ、同じ時を分かち合うための大切な場である。
「好き嫌いはないんですか」
 栞がたずねる。
「ないね。子どもの頃は多少あったけど、今は何でも食べられる」
 それから長濱は自らの甘いものへの愛着を語った。市内にある海燕堂という老舗の洋菓子店を贔屓にしていて、そこのシュークリームやロールケーキに目がないのだと言う。
 彼がものを食べる様子を見ていると、栞はなんだかほっこりとした気分になる。こんな人になら何を作ってあげても喜んで食べてくれるのだろう。そんなふうに心が動いている自分自身に彼女は気づいた。
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