ロング・ディスタンス
 成美がしつこくたずねると、栞は訥々と話を始めた。
「あれは花束の包装よ」
「花束? 包装するくらいだから自分用じゃないよね。誰かにプレゼントでも持っていったの?」
「ううん。供養しにいく時に持っていったの」
「供養ってお寺に行ったの? 親戚でどなたか亡くなられた方でもいたの?」
 栞の父親が亡くなったのは中学の時だったが、確か命日はこの時期ではなかったはずだ。 
「ううん」
 友人は首を振る。
「では、友達で亡くなった方がいたの?」
 これまでそんな話は聞いたことがないが。
 栞はまた首を振る。
「一体どういうこと?」
 成美がたずねる。
「私、今日、お寺まで供養をしにいったの。この世に生まれなかった子の魂をね」
「この世に生まれなかったって……それって」
 友人の言葉が成美の胸をえぐる。彼女の口からその先を継ぐことはできない。
「そうよ。一年前に私が堕胎した子。今日はその子の命日だったのよ」
「堕胎!?」
 耳を疑う言葉だった。
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