ロング・ディスタンス
「彼にはもう二人が子どもがいて、もうこれ以上責任を持って扶養できないからって。でも私、『あなたには絶対にご迷惑を掛けませんから』って言って、産もうとしたのよ。自分一人で育てるからって言ったのに。でも、彼は絶対にダメだって譲ってくれなくて。『父親のいない子どもを自分のエゴで産むんじゃない。そんな環境で生まれてきても子どもが不憫なだけだって』って」
「ということは、彼は既婚者なのね」
 栞がうなずく。
 成美は思わず指先で額を押さえた。やっぱり不倫だったのかと思った。
「でも、世の中には一人で子どもを産んで育てる女性がいることにはいるでしょ。産むか産まないかは栞の意思じゃないの」
「私だってそう思ったけど、とにかく彼は私が下ろすと言うまでうるさく説得し続けたのよ。だから私も根負けして……」
 父なし子がかわいそうだから産むなだなんて、後々、子どものことで責任が派生するのを恐れた、無責任男の方便ではないかと成美は思った。
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