ロング・ディスタンス
 栞は不倫相手からもらった指輪を、病院の屋上から捨てたのだという。
 その時の友人の気持ちを思うと、成美は胸を締め付けられそうになる。
 どんな思いで、大切にしていた指輪を捨てたのだろうか。
 それを思うと、つくづく「婚約指輪の代わり」などいうインチキくさい言葉を吐く男の軽薄さに腹が立つ。

 これでやっと本当に本当にあの男と切れたわけだけど、それはあまりにも遅かった。
 失ったものが、失った時間があまりも多すぎる。
 友達同士の食事会とか、海外旅行とか、彼氏とのデートとか、恋愛の先の結婚とか。普通の若い女が当たり前に経験することを友人は経験していない。
 誰より幸せになってほしい親友なのに。

 今はただ、病身の友人に心で寄り添ってやろうと成美は思っている。
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