ロング・ディスタンス
船出
 思えば遠くに来たものだ。
 古い歌の歌詞にこんな一節があったような気がする。
 それは、はて誰のどんな曲だっただろうか。
 海を見ているとそんなことを考えてしまう。

 4月になって新しい年度が始まり、長濱太一は離島にある診療所に外科医として赴任した。
 来る前から、離島では余所から来た医者や教師を大切にしてくれると聞いていたが、いざ来てみるとまさにそのとおりであると実感する。太一は島でも小ぎれいなうちの一つに当たるアパートをあてがわれ、住環境に不自由はない。

 島のコミュニティは狭いので新参者の医者のことは島中に知られた。医師という職業柄、町長や地元の名士たちと挨拶をする機会があり、それまでの単なるペーペーとは180度とまではいかずとも、90度は異なる扱いを受ける。
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