ロング・ディスタンス
「だいぶ先のことですけど、太一さんは離島での年季が明けたらどうするつもりなんですか。どこかの病院に就職するつもりなんですか」
 彼は本土に戻ってくるつもりなのだろうか。戻ってきたとしてもこの町の病院に就職できるのだろうか。
「うん。実はね、うちの叔父貴がね、国道沿いの医療村で内科医院を開業しているんだ」
「ああ、あそこに病院がいっぱいある通りがありますよね」
 医療村とは色々な専門の診療所が寄せ集まった地域のことを指す通称だ。
「うん。その人がね、その地域にまだ空き地があるから、俺に近所で整形外科を開業しないかって持ち掛けてきているんだ。俺が話を引き受けたら、その叔父さんとうちの親父がスポンサーになってくれる」
「そうなんですか! それってすごいチャンスですね!」
 栞が声を弾ませる。
「いくら親戚っていっても人に金を出してもらうのは責任を感じるだろう? だからまだ考え中なんだけど。親父は会社を退職してからも関連企業に天下って頑張ってくれているんだ。俺の開業資金を貯められたらと思っているみたいでね。それを考えるとありがたく引き受けるべきなのかなという気持ちに傾いている」
「そうだったんですか」
 太一の未来が明るい方に開けていくのはうれしいことだ。
「そう。だからね、もし将来めでたく開業する運びとなったら、栞ちゃん、君に力を貸してもらいたいんだ」
「私の力?」
「うん。君さえ良ければクリニックの事務をやってほしい。どうせなら知ってる人にやってもらう方が心強いしね」
「私で良ければ喜んで太一さんのお手伝いをしますよ!」
 栞は二つ返事でOKした。

 これは彼女の不確定な将来を案じての提案なのだろう。彼女は太一の心遣いに感謝した。遠い未来のことだけど、彼のそばで働いて彼の役に立てると思うとわくわくする。
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