暗闇の鎌【読みきり短編集】
 老人二人組の一人が私の足を踏んでいた。顔を見上げると、老人は謝りもせず、なにもなかったように席を欲している笑顔をしていた。


隣の人は席を譲り、左側の老人を座らせた。


だからより一層、それは当たり前でしょうという微笑みが向けられていたのだ。


普段なら優しく席を譲っていただろう。だけどその前に、足を踏むのは当たり前のことなのか? 謝るのが先じゃないのかと頭を過った。


苛立ちを抱えている私には、なにもかもが負でまがい物に思えた。


もうだめだった。世の中の理不尽さ、うまく立ち回れない腹立たしさ、なにもかもが面倒臭かった。


これから会社へ行くのも、なんのためにお金を稼いでいるのかも、良くわからなくなっていくる。


ただ、今分かっているのは、この感情を解き放ちたかった。
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