暗闇の鎌【読みきり短編集】
 ぎゃーと泣く赤ん坊。それを抱きかかえ、怯える日常に疲れ切っている主婦。

中途半端に頑張って作り上げたホストみたいな、やせ細ったサラリーマン。

スマホを握りしめている縁眼鏡のデブった男――みんなみんな逃げて行った。


――ははははっ!!!!


何年振りだろう。こんなに笑いが零れたのは。そう我慢なんてもうしなくていい。ずっと耐えてきたのだから。


ビールっぱらで突き出たサラリーマンが、太っているからか逃げ遅れたようだ。


――この腹がいつも満員電車で私を圧迫し、苦しめる。


「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」


何発も何発も傘をフルスイングした。弾力のある腹。トランプリンのように跳ね返そうとするが、それも数分の出来事だった。血まみれになり、弾力は失われ、ただの肉になった。


倒れた肉塊を見ると、また突き進んだ。


ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ――どこから声が聞こえるのかわからない。でもこれは私の心からの叫びなのだ――きっと。だから私は今宵憂さ晴らしをする。


――これは私の意志でもある。


そして一歩一歩、前を進むことにより、肩の荷がおり、すっきりした。

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