暗闇の鎌【読みきり短編集】
 ――トルルル……トルルル……


「またかっ、チッ、いつもこうだ――はい、もしもし?」


ゴミを捨て、ほっと安心したのも束の間。駅に向かうために歩き出し、5分もしないところで電話が鳴った。


いつも通り妻からだった。彼女は時間をわきまえるという思考はないらしい。


「貴方、クロワッサンって言ったけどやっぱり食パンにしてくれる? それと牛乳も帰りに買ってきて。お願いね」

「ああ……それじゃ」


眠そうな、だるい声が鼓膜に響く。


――くだらないことでイチイチ電話をするな! 自分で買いに行け!


腹が立つのに、心の中に押し込んだ。これが幸せの秘訣なんだろう。悪魔のような方法だ。


――俺の幸せって一体なんだろう。駄目だ、別のことを考えなくては。


その先の答えを見つけようと、突き詰めようとするが、足がふらふらっと軽やかになり、どこかへ飛んでしまいそうになる。


――しっかりしなきゃ、いつものことだろう?
< 91 / 118 >

この作品をシェア

pagetop