鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。

起きてしまったんだ。

気がつけば、もう桜も散り始めようとする時期になっていた。直人はあのテストの後、急遽、業者に依頼し、マシンのフレームをスポット溶接することで強度を上げ、ようやくニューマシンを完成させようとしていた。はやる気持ちを抑えながら、直人はまともに走ることができるようになったマシンをピットに降ろすと、満足な点検も調整も行わずに、本コースへと飛び出した。前方にも後方にも、全く他のマシンは見えない。タイヤを温めつつ、1周目はゆっくりと。そして最終コーナーから…。
”クウゥワン!”
アクセルを目一杯開いて、最終コーナーを立ち上がる。
“さあ、見せてくれお前の本当の力を”
前輪を少し持ち上げながらも、コーナーから立ち上がった直人は、ストレートへとスピードを上げて、ラップへと飛び込んでいく。
「それっ!」
思った通りのラインで、コーナーをすり抜けていく。
「こいつは…いけるぞ…」
アクセルワークでマシンをコントロールしながら、直人はそう思っていた。これなら絶対に行けると。それは確信といえるものだった。3周、4周、5周。走っていてこんなに楽しかったのは、高校時代以来だったろうか。そんな気がする。結局、直人は10周走って、ピットロードへと入っていった。
「どうだ!ニューウェポンの破壊力は?今度こそ本物か?」
雅之の言葉に、直人はヘルメットを脱ぎながら答えた。
「ああ。抜群の破壊力だ。これなら他のマシンはあっという間に木っ端微塵ってぐらいさ!本当にスゲエよ、コイツは。米本さんのおかげだよ」
雅之は黙ってうなずいた。これで目処がたった。直人はそう思い、ようやくレースのエントリーを決めた。
“いよいよ今シーズンのスタートだ。なんとか米本さんに追いついてみせる!”
直人はそう考えていた。今の自分がここにいることができた大きな理由、それは間違いなく米本のおかげだ。そう考えれば、自然と浮かんでくる思いだった。直人と雅之は新たな決意を抱いて、帰途についた。その数日後、とてつもないことが起きるとも知らずに…。
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