ラストコール
いつも考えてた。あの時、わかっていたら彼女を失わずにすんだのに。使いたいときに使えないものは結局、邪魔でしかないんだ。
彼女を救えなかった、今さら過去にとやかく言ったところで。
『きっと、誠一は優しい人なのね。』
彼女の言葉に驚駭した。いつか前も言われた言葉。
『誠一の周りの方が羨ましいわ。だって、いつも誠一が助けてくれるんだもん』
…君だって、一緒にいたじゃないか。そんなこと言えるわけもなく、音にならなかった言葉は僕の中に消えていく。
『私も貴方と逢って話したっかったな。』
「なら、会いにくればいい」
あの頃から身体だけは成長した僕に逢いたいなら、、"ここまで"見にくればいい。君になら、いくらでも拝ませてあげるから。
『いいの?流石に遠いなぁ』
「交通費や時間なんかかからず、僕に簡単に会える方法があるよ」
本当!?と期待を孕んだ声で聞いてきた。
ああ、お金も時間も、必要ない。
"君"さえいれば。
『どうすれば良いの?』
「簡単だよ、」
君からしたら、過去を変えるから大変かもしれないけど、僕からしたら…。
「生きればいい」
『…へ?』
彼女らしからぬ、間の向けた声が返ってきた。そりゃあ、そうだ。突然、何の文脈もなかったことを言われたのだから。
『生きるって…それだけ?』
何がそれだけだ、それだけのことも君は出来なかったじゃないか。
「そう、それだけ」
生きて、ともう一度言うと少し間をあけてから、分かりましたと返事が聞こえた。
『生きるだけで、誠一に会えるなら100歳になるまで生きてみるわ!』
「…約束だよ」
はいっと元気に返事をした彼女は、やはり嘘つきだ。100歳になる以前に10代で人生を終えてしまったじゃないか。
あまりに若過ぎる年で。彼女の未来を奪ったのは他でもない、僕だ。
『じゃあ、私からも約束。生きるから絶対に私と会ってね』
どくっ。一瞬跳ねた心臓に手を当てる。
何を言って…。僕はいつだって君に会いたくて堪らないのに。
どちらの約束も守られはしない。結局、君に破られるんだ。
「…うん、約束」
それでも、分かっていてもそう言ってしまう自分に僕もバカだなと自嘲の笑みが浮かぶ。
『誠一に会えるの楽しみにしてる』
「…僕もだ」
『同じね、そろそろ寝ないと』
時計をみれば、いつも通話が終わる時間。
『誠一。おやすみなさい』
「っ、待って」
『?』
反射的に出た言葉。明日で彼女と話せるのが最後かもしれないんだ。まだ、伝えられとないことが山ほど・・・
「…また明日」
『うん、また明日!』
「…おやすみ」
もう一度おやすみなさいと言って彼女の声が聞こえなくなった。
また明日、か。布団から出て窓際から外をみる。
街灯が夜道を照らす中、空を見ると綺麗な満月が僕を照らした。
やっぱり、伝えられない。
僕はやっぱり、弱い。
僕はただ、逃げていたんだ。悪夢が起こったあの場所から。沢山の思い出がつまった場所から。過去から、逃げていただけなんだ。
逃げてるんだ。今も。
君から。
   過去から。
     なのに、
(誠一。誠ちゃん)
僕を呼ぶ彼女の声が、耳から離れなかった。
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