ラストコール
「…ねぇ、約束覚えてるか?」
喉から出た声は歓喜のあまりみっともなく震えていた。「はいっ!」と何時もの元気な返事が返ってくる。
『生きる、でしょ?ちゃんと覚えてる!』
「…うん、良い子」
『それに約束なんかなくても誠一に会えるなら私はずっと生きてみせるわ!』
彼女はまた…僕を満たしてくれる言葉を簡単に言ってくれる。小さく笑うと聞こえていたみたいで照れた笑いが聞こえた。僕も大概馬鹿だなと思う。破られるとわかっている約束の再確認なんて。ほんと、周りからみたら滑稽だ。それでも彼女は律儀に「守る」と言ってくれている。「頼んだよ」と呟いた声に彼女は大きく頷いた。
『絶対誠一に逢うから。』
「うん、楽しみにしてる」
『私も…あっ』
どうやら何かあったみたいだ。一体何なんだ、今日で最後なんだ、邪魔しないでくれ。聞こえてくるのは彼女の声だけで。向こうの状況は分からない。
『ごめんね』
「どうした…?」
耐えきれなくなって声をかける。彼女はあぅあぅと少しどもった後、小さく言った。
『ごめん誠一。母親に早く寝ろと怒られたわ』
しょぼくれている彼女にかける言葉が見つからない。この電話が繋がるのは深夜、向こうからしたら中学生である彼女がこんな時間に起きていて、しかも電話をしているなんて。怒られてしまうのは当たり前のことだろう。寧ろ今までバレてなかったのが奇跡だ。けれど、よりによって今日バレてしまったか。最後の…今日。
『ごめんね。今日は寝る。』
「…ああ」
『おやすみなさい』
「っま、待って!」
昨日と同じように反射的に呼び止めてしまった。それがわかっていたかのように「うん」と彼女の少し嬉しそうな声が返ってきた。
『どうしたの?』
「い、や…その…」
言いたいことがあり過ぎて何から言ったら良いのか分からない。震える唇から発せたことは、
「明日、昔のなじみで集まるんだ」
『昔仲のよかった人達で?いいなぁ。』
「紹介したいんだけどね、何か一言、メッセージくれない?これからの未来に向けて。」
『未来に向けて!?』
彼女に感じていた罪悪感は皆一緒だから、言われたかった言葉も一緒だと思うから。代表して、僕が受け取っておこう。
『じゃぁ・・・頑張って、生きてください。』
その言葉に胸が痛くなった。
「…ありがとう。きちんと、伝えるから。」
まったくもって嘘偽りのない本心。僕からの、僕達からの御礼。
『どーいたしまして。おやすみなさい』
「ああ、おやすみ」
最後になる恒例の言葉をいって電話は切れた。本当はもっと沢山、話したかった"僕"のことを伝えたかった。君のおかげで、僕はこうしていられるんだって。それでも、笑みが溢れてしまうのは、きっと。
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