今すぐここで抱きしめて
タバコとキスの味
「帰るの?」


薄いシーツの隙間から顔を出して、身支度を整えている男にそう言った。


まだ何も身に纏っていない身体は、さっきまでの余韻が残っているようで、じっとりと熱を持っている。


ベッド脇にあるサイドボードに腕を伸ばしてスマホを取った。


時間は夜中の2時。


「さすがに朝はいないとな」


そう言って、左手首に時計をはめて髪をかきあげる仕草が妙に色っぽくて、とても40歳には見えない。


この男、山瀬さんは私の上司で既婚者。


ジャケットまで羽織った彼は私の唇に軽く触れたあと、「また明日」と言い残して部屋を出て行った。
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