そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】

現実(うつつ)

「あら、まあ」

あの人と私が、食事から帰ろうとした時、
私達はそう声をかけられた。

あの人は立ち止まり、その男女二人を凝視して、目を見開いた。

「どうしたの?口もきけない?」
女は微笑む。

「研修なんですってね。まあ、会社のお金で…お気楽なご身分ね」

「そんなことない。ここは自腹で、
今は仕事の後のプライベートだ。失礼だぞ」

あの人は怒っているがそれを押さえて話しているようだった。

「まあ、怖い。確かに研修で来ているんでしょうけど…
こんなところで立ち話もなんだから、食後のお茶はいかが?」


そう言って女は、拒否権のないような素振りをして
ティールームに私たちを手招きした。

「佐伯」

「はい」

「あなたも同席しなさい」

「はい、わかりました。失礼します」

男はそう言い女の隣に座る。

相手の男女は上司と部下という感じ。

向い合せに座った私たちの空気は最悪に重かった。

「遠慮せず、好きの物を頼んで」

女があの人にメニューを渡しながら
向ける瞳は表面上甘いのに、ナイフのように鋭かった。

その視線が私に一瞬刺さり二度とこっちに向かなかった。


私の横のあの人の表情は硬かった。
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