そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】

ありがとうで終わる(あの人Side)

彼女が部屋に戻ってきた。

ソファーに座っていた俺は意を決して一枚の紙を差し出す。

「なに?」

彼女は、人差し指と中指でその紙を器用に挟み取り
目の高さに持っていき開く。

その色っぽいしぐさに目を細める。やっぱりいい女だ。

「とうとう…」

「ああ。もう5年になるからな」

「私達は2年。そろそろ潮時なんでしょうね。
恋愛感情って2年が賞味期限っていうし」

そう言いながら紙を俺に返す。

俺にとうとうきた辞令。
もうじきこの土地から…彼女から…離れなければならない。

「躰にだって感情はあるからね」



彼女らしい切り返し。確かに、彼女の躰は…極上だ。
躰の敏感な反応に感情すらあるのではないかと
思ったことがある。

最初は、しばらく関係を持ったら、切ろうと思っていた。

ややこしいことは嫌いだ。
面倒なことになれば、首すら危うくなる。

つまみ食い程度で留めておけば火遊びで済む。
欲望のはけ口は必要でも、感情は…いらない。

今までだって、火遊びはそれなりに楽しんできた。
だから、それくらいの事で、俺たち夫婦は今更壊れない。

お互い寂しい大人の男と女。数回の情事。
それでおしまいのはずだった。

彼女はドレッサーの前に立ち、髪をかきあげながら
鏡越しに見える俺に、意地悪くほくそ笑んだ。



その笑みが作りものだということを俺は知っている。

彼女が、眠ったまま何度も俺にすり寄って

「好き。愛してる…」

とつぶやくのを耳元で聞いた。

でも、俺の出した条件を頑なに守り、
その後あんな契約をした彼女は、
この2年ずっと悪女を演じ続けてきた。

それほど俺を愛してくれていること。

それを知っているのは俺だけだということに優越感を感じていた。

だからこそ、俺は…感情はいらなかったはずなのに
こんなことになっている。
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