黄昏に暮れる君へ

 セレスティーヌ。
 ――その胸に誰より赤い薔薇を秘めし者。
 それは、吸血鬼の心臓。
 吸血鬼のすべての力の根幹。
 彼女の存在ゆえに、吸血鬼は吸血鬼となり得るのだ。
 だからこそ、吸血鬼たちはその命を守ろうとし、聖職者たちはその命を狙う。
 もっとも、彼女の存在は今や伝説と共に風化しているのだが…――。

「……セレス」
「はい、お兄様」
「…もう、部屋に戻って構わないよ」
「はい…、失礼いたします」

 先程と同じように、セレスティーヌはドレスの裾をつまみ、腰を折ってみせた。
 小さな足音が灰色の闇に響き渡り、消えた。
 暗がりの中で、レオンの瞳だけが奇妙に冴えわたる。
 すべてを見透かす、人ならざる者故のその瞳は…――。

「……クロード…、というのか……。
 …美しい、若人よ…。
 ――嗚呼、セレス。
 お前が望むなら、彼さえも我らがしもべにしてしまおうか…?
 ふ、ふふ、ははははは…!」

 暗い小さな閉ざされた部屋に、対になった赤の瞳だけがらんらんと輝いていた…――。

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