黄昏に暮れる君へ

 ――夢を見た。
 遠い昔の薔薇の園、母と共に過ごした時間。

「…セレス。
 セレスティーヌ…」

 美しい人だった。
 満月のように輝く金の髪と、暁のように煌めく緋の瞳。
 永遠の若さを持つ吸血鬼の母娘は、きっと鏡に写したほどに似ていたことだろう。

「お母様?」
「いつか…、いつか、きっとあなたも私と道を歩むことになるわ。
 けれど、どうか運命を嘆かないで。
 ――必ず、あなたを守ってくれる人が現れるから」
「ふぅん…」

 幼い私に、その言葉の意味を理解させるのは難しかっただろう。
 …けれど、今の私は、今の私なら…――。



「…セレス」
「……え?」
「セレスと呼んでも…、構わないね?」

 深紅のリボンで束ねられた、雪より冷たい銀の髪。
 ああ、この瞳は、母と同じ暁の…――。

「…セレスティーヌ?」
「ええ…、ええ、構いませんわ」

 きっと、この人…、レオンもまた、まだ若かった頃、母に生き写しだったのだろうか。
 流れ落ちる、黄金の髪…――。

「…セレス。
 ああ、なんということだ…!
 お前は…、本当によく似ている…!」
「…レオン?
 私が、誰に似ているというの?」
「…それはもちろん、お前の母のことだよ。
 誰よりも美しい、私の…――」

 そこでレオンの言葉は途切れて、私にはそれを不思議そうに見つめることしか出来なかった。
 ああ、そうだ。
 あの日、私の胸に隠された薔薇が赤く染まったあの日、レオンは黒い馬を走らせて、私のところに再び訪れたのだ。
 一緒に来い、と。
 ここもじきに閉ざされてしまうから、その前に早く行こう、と。
 そして、私たちは暗い森の中で一夜を明かし、赤い霧に閉ざされた孤城へと帰した。

 ――その後、残された僅かな同胞たちは、聖職者たちの殲滅から逃れるため、世界中にちりぢりになった。
 ローゼ=イリュジオンに残ることを許されたのは、望まぬ玉座を手に入れたレオンと、紅い薔薇を胸に秘めた私。
 そうして二人きりで、世界から切り離された暮らしを始めた…――。

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