第一話 縁結び神社
 私は、インターネットで公衆電話の設置箇所を検索し、駅の北側にある病院へと向かった。電話は検索通りにロビーの片隅に設置されていた。 
 ありったけの百円玉を電話の横に置き、携帯を見ながら番号を押した。電話の向こうから、電波の届かない場所か電源が入っていませんというアナウンスが流れる。 
 
 やっぱり何か起こっているに違いない。私はそう確信し、応答しない受話器を切った。 

 ロビーの長椅子には八割程の患者が頭を並べている。たいていは、角にあるテレビを観ているか雑誌をペラペラと捲っている。 
 そんな群衆を横目にロビーをすり抜けようとした時、テレビからアナウンサーの声が聞こえた。私は足を止め、テレビの画面に目を移した。 
 事件のようだ。場所はここと同じ市内だが詳細は分からない。マザーマートというス―パーの駐車場で人が刺されたという。 
 車が陰となり目撃者は遠目に見た主婦が一人だけで、赤いシャツを着た男性が走って逃げている後ろ姿が確認されているようだ。従って、犯人は逃走中でまだ捕まっていない。 
 犯行時刻は一時間前。刺された女性は知らない名前だった。 
 次のニュースに画面が変わると、私は玄関から外へ出た。刺されたのは亜希美かと期待もしたが、そんな都合の良い話でも無かったことに、何だか馬鹿らしくさえ思えてきた。
< 8 / 14 >

この作品をシェア

pagetop