Drive

6-2. 優しいブレーキ


「上手いですよ」

石岡の答えに森川は低く笑う。

今朝感じた悔しさがまた石岡の胸に滲んだ。涙になって流れたはずなのに、まだ小さな欠片が残っていたのか。

『いしおか?なんかあった?』

何も言えなくて、立ちすくんで、森川が優しく気遣う声が余計に辛かった。「森川さんなんか嫌いだ」と子どものように泣きたかった。拳で彼の胸を叩いて泣く事ができたら、どんなに胸がスッとしただろう。

ベッドの上に腰掛けた森川が立ち上がった時、石岡は堪(た)えられずに自分のベッドに倒れこんで泣いた。森川は、今度は石岡のベッドの縁に腰をかけて、石岡の頭を二、三度撫でた。森川の大きな手は石岡の胸を悔しさでいっぱいにしてかき乱して、それでいながら石岡を癒すだけの優しさや励ましを湛えていた。敵わない、敵わない、と声にできない叫びが涙になって溢れ続けた。


穴瀬は後部座席で寝てばかりいる。朝の砂浜で夜更かしの続きだと言っていたのだから徹夜だったのだろう。彼の朝陽を受けて何かを求めていた瞳や朝陽が零れる木々のトンネルの下で触れそうで触れない距離を保ち続けた自分の手の熱さやそんなものがいっきに押し寄せて石岡の胸を焦がし、森川が優しいブレーキを踏むたびに涙の粒を醸造するような気がした。

「石岡、どうした?酔ったの?」

森川が目だけを前に向けたまま、石岡に身体ごと傾げて尋ねた。

「え?いえ。いいえ。」

「少し落とそうか。急ぐ旅じゃないんだから・・・」

「いえ、本当に大丈夫です、酔ったとか、そういうんじゃなくて・・・」

「ほんとに大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。」

思い出し泣きしそうだった、なんて、言えるはずがない。石岡はほんの少しの間そっぽを向くように見るものなど何もない窓の外を見る。車窓は、先ほどより少しスピードを落として、奄美の国道の景色を飛ばしていった。



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