はじまりは政略結婚
里奈さんはすれ違う間際に、視線だけを私に向けた。

それはまるで憎らしげに見る目つきで、それを不快に思うと同時に、不安も大きくなっていったのだった。

「ねえ、お兄ちゃん。里奈さんて、智紀の元カノなんでしょ?」

本人に聞く勇気のない私は、兄に確かめてみた。

すると一瞬、表情を強張らせて、力なく頷いたのだった。

「何で気付いたんだ? あいつから聞いたわけじゃないんだろ?」

「うん。それが、たまたま聞いちゃったの。里奈さんの知り合いらしき人が会話をしてるのを。彼女、私たちの婚約に相当ショックを受けてるみたいよ?」

その直後、料理が運ばれてきて、雑誌をしまう兄がポツリと呟く。

「海里も帰ってくるしで、頭が痛いことが増えるな」

「えっ?」

フォークに伸ばしかけた手が止まり、兄を真っ直ぐみつめた。

「里奈ちゃんのことは、確かに不安要素はあるけど、智紀の心が彼女に向くことはないよ。問題は、海里の存在だ」
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