はじまりは政略結婚
「俺の側にいれば大丈夫だよ。由香が困れば、助けてあげるから」

私の不安は口に出さなくても、兄には伝わっていて、それが本当に心地いい。

いつまでも、兄に頼りきりなのはいけないと思いつつ、このきらびやかさに圧倒されてしまい、甘えることにした。

なるべく距離が開かないように歩きながら、私は兄に小さな笑顔を向ける。

「うん、ありがとう。お兄ちゃん」

兄は、私に穏やかな笑みを返すと、ゆっくりと歩いていく。

それも私の歩調を合わせてくれているのかと思うと、心がさらに温かくなってきた。

いつも思うことだけど、恋人の涼子さんが羨ましい。

私も妹じゃなかったから、絶対に兄と付き合いたかったと、けっこう本気で思っている。

そんなことを考えながら、兄に隠れるように歩いているとーーー。

「百瀬(ももせ)副社長!」

背後から、男性の声が聞こえてきた。

振り向くと、40代前半くらいの優しそうな長身の人が、愛想のいい笑みを浮かべている。
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