はじまりは政略結婚
眉間のシワはなくなり、両手を伸ばして体の側面にピッタリくっつけると、頭を下げたのだった。

「大変失礼いたしました! すぐに副社長にご連絡をいたしますので」

「あ、いえ……。ありがとうございます……」

どうやら私自身より、名前の方が有名らしい。

智紀の婚約者と分かったらしく、私を受付まで丁寧に案内してくれた。

そして、そこにいる女性に手短かに説明をすると、会釈をして立ち去ったのだった。

改めて、『智紀の婚約者』という立場の凄さを実感する。

「百瀬様、副社長室までご案内しますのでどうぞ」

「えっ⁉︎ 行っても大丈夫なんですか? 実は、彼とは約束をしていたわけではないんですが……」

勝手にテレビ局に来た挙句、副社長室まで行ったんじゃ、さすがの智紀でも怒りそうだ。

だけど受付の女性は穏やかに微笑むと、ゆっくりと上品に答えたのだった。

「大丈夫です。先ほど副社長に確認しましたら、お連れするようにとのことでしたので」
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