color ~蒼の色~
「どこが?」

「いや、なんとなく」

「何それ…」

「おばさんと、なんかあった?」

…………あ、気づいてない、よかった。
きっと私が、また家で嫌なことでもあったのかと思ってるらしく、内心気づかれてないことにホッとした。

「ないよ、あいかわらず喋ってないし」

「ふーん」

原因はあんただよ…って言えたら、本当は楽なんだろうな。

溶けた氷を見ながら、私は昨日の光景を思い出していた。
(レモン色。さわやかな色。彼女にピッタリ…)

そう思うと、私にはひどく不釣合いに思えた。

「お前、あんまり無理すんなよー」

…………あ、いつもの総二郎だ。

「うん、嫌になったらどっか行っちゃおうかと思ってるし」

「なんだそれ、面白そうだな~。お供するぞー」

「連れてかないよ、バカ二郎」

いつもみたいに笑って言うから、私も笑って答えた。


「これ、捨ててくるね」

「蒼、最後の一口、あーんしろ」

そう言って総二郎は私にスプーンを向けてきた。


目が合った総二郎は、なぜか笑っていなくて。
スプーンですくった最後の一口だって、原型のないレモンの液体で。
それでも私が口を開けるのを、黙って待っていた。

ぽたり、ぽたり。

こぼれるレモン。

私はまるで操られるように、口を開けた。
< 44 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop