color ~蒼の色~
涙が止まらなかった。

怖くて痛くて、身体がいうこと効かない。
力を入れて抵抗してみても、まるで赤子の手を捻るように、あっさりと力負けしてしまった。

「じっとしてろよ、くそガキが!」

パァンッ!と乾いた音が響き、頬を叩かれたのだと痛みで気づいた。

ブラウスを乱暴に捲られ、むき出しになった私の腹部に、あの乱暴な手が触れてきた。


――――――もうダメ…。

最後の抵抗も叶わず、力を抜きそうになった瞬間、何かが派手に、弾ける音がした。


「蒼っ!!」


泣いて、縛られて、散々暴れて、あられもない格好だっただろう。
見られたくなかった、総二郎には。

でも、来てくれた―…。

ぼろぼろこぼれる涙は、安堵と醜態を見られた悲しさと、両方だっただろう。

突然の出来事に驚いたのか、私に跨っていた男の体重が軽くなったと思った瞬間、まるでスローモーションのように、その体躯は宙に舞っていた。

私の目の前に、総二郎の振り上げられた脚。

涙目で、ただそれを見ていた。


「蒼ちゃんっっ!!」

「吉野っ!大丈夫かっ!?」

私を一度抱きしめ、縛られた腕と塞がれた口を、震える手で取り去ってくれたのはまどかだった。

「蒼ちゃんっ!蒼ちゃんっ!」

「吉野、お前口から血ぃ出てるぞ!?」

平井君まで来てくれた。
私、助かったんだ。

「あ…あり…がと…っ」

呆然とする富田さんに、まどかは叫んでいた。

「なんてことするの!?あなた、それで恥ずかしくないの!?最低よっ!!」

悲鳴のようなその叫び声に、しどろもどろに何か言おうとしていた富田さんだったけれど、パキッと割れたガラスを踏みしめる音に、みな意識を持って行かれた。

総二郎が、私を見下ろしていた。

自分の醜態に気づいて、慌てて身だしなみを整えたけど、見られたくなかった。

「―――――…蒼?」

顔なんてぐしゃぐしゃだし、制服だって、ブラウスのボタン飛んじゃってる。

「…っやだ!見ないで!」


「総二郎!!!」

平井君の叫び声が、まるで空気を割るような、切羽詰った声に聞こえ、思わず顔をあげた。
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