ヤンキー君と異世界に行く。【完】
お礼を言うのなんか久しぶりで、もじもじする仁菜を、颯は珍しいものでも見るように見つめる。
「どうしたんだよ……やけに素直じゃん」
「わ、悪かったね、いつもは素直じゃなくて」
つないでいた手に気づき、慌てて離そうとする。
しかし、颯は怪我人とは思えない速さで、それを阻止した。
仁菜の一方の手に、自分の指をからませる。
「悪くねーよ。
お前はそうやって素直な方が、可愛い」
か、か、可愛い……?
「昔はいつも素直だったのにな。
俺、なんか懐かしい夢を見てた気がするわ」
ま、まさか颯も同じ夢を見てたの?
初恋の相手に生理が来たことがその場でバレるなんて、今考えればありえない。
(そう……『颯兄ちゃん』は、あたしのヒーローだった)
と同時に、初恋の人でもあったことを、仁菜は思い出した。
中学でおそろしくダサい、ヤンキーなんていう種族になってしまうまでは。
「どんな夢見てたの……?」
つないだ手を離さずに、仁菜は聞く。
「……ん?目が覚めたら忘れちまったよ……」
颯は苦笑すると、体を起こそうとした。
けど、「いでででで!」とうめくと、再びベッドに沈んでしまった。
「やだ、まだムリだよ颯!」
颯の目には、うっすら涙が浮かんでいた。
(よっぽど痛かったんだね……)