ヤンキー君と異世界に行く。【完】


颯が『煉獄』の総長になったのは、つい最近だ。


先代総長が颯を見込んで可愛がっていたため、なんのもめ事もなく、颯は総長に就任した。


メンバーのほとんどは頭が悪い。そして、顔も良くない。人付き合いも下手。


そんなふうに、家でも学校でも居心地が悪く、なんとなくはみ出してしまった者たちの集まりが、『煉獄』だった。


先代総長の代から、煉獄はただ爆音を鳴らして走るだけの、他のチームから指をさされて笑われるチームだった。


それでも、彼らは良かったのだ。


自分を受け入れてくれる、仲間たち。


彼らと共通の趣味を持ち、そのことだけを考える。


バイクに乗って、川から海へつながるこの町を、安全に走るだけで、彼らの心の折り合いはちゃんとついていた。


ただ、正面からケンカを売られたときだけは、それに立ち向かったが……。


総長に必要なのは、無謀な勇猛さでも、カリスマ性でもなかった。


ただ、仲間を大事にして、話を聞いてやる。


常識を持って、一般人には決して迷惑をかけないよう、彼らのうっぷんを溜めさせないようにする。


それだけでいいのだと、先代は颯に言った。


『お前は優しいからな。一番適任だよ。
みんなを頼むな』


そう言って、先代は引退した。


同級生の彼女が妊娠してしまい、責任をとって結婚し、社会人として働き始めるためだった。


引退パレードでは、チームの全員が泣いた。


その日のコールは、長○剛の『しあわせ○なろうよ』だった。





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