ヤンキー君と異世界に行く。【完】


仁菜は、自室に戻ってシャワーを浴びる。


水は貴重だから、あまり使わないように言われているけれど。


(知らないもん!ラスのバカ!)


颯があの恐ろしく高い崖から落ちてしまったというのに、ラスときたらシリウスが戻ってきたのが嬉しくて、彼の顔をみるたびにやけている。


(そりゃあ、たった一人の家族みたいな人だもんね。

嬉しいのはわかるけど、あたしが気を使ってたのはなんだったの?)


シリウスは監視の隙をつき、命からがらバイクを奪って逃走してきたらしい。


彼が戻ってきてくれたのは仁菜も嬉しいけど、それとこれとは別。


(あたしのことが好きだって、言ったのに)


ラスの言葉を思い出すと、むかむかする。


ウソではなかったとは思うけれど、あの告白にドキドキした自分はなんだったのか。


(結局、一番はシリウスさんじゃない)


比べる次元がおかしいとは思う。


シリウスは男で、家族で、親友みたいなもの。仁菜は女の子で、恋愛対象のはず。


だけど、だけど。


(ラスがこんなに単純に、ううん、こんなに早く回復してくれるってわかってたら、あたし……)


颯の告白に、素直に答えられていたかもしれないのに。



< 330 / 429 >

この作品をシェア

pagetop