ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「そういうわけで交渉は決裂。
使者として精霊族を訪ねていた俺はあきらめ、王に罰を受ける覚悟で帰り支度をしていた。
最後に泉を見るだけ見てこようと思って、ひとり隠れて泉の近くにいった。そこで……」
アレクは、目の前の城を見上げた。
視線はもっと、はるか遠くを見ているようだった。
「出会ってしまったんだ。
俺は、彼女と」
低い声が、仁菜の胸に重くのしかかった。
「泉の方から、水音がすると思った」
アレクは続ける。
神聖な泉で、なぜ音がするのかと思い、こっそり近づいた。
そこで見たのは……
泉で水浴びをする、精霊族の女性だった。
足首まである見事な金髪に、それ自体が発光しているような、白く輝く肌。
長いまつげに、大きな瞳。
彼女の美しさに、若かりしアレクは、しばし目を奪われる。
『……っ』
しかし、のぞきはいけない。
アレクはふと我に帰り、その場から立ち去ろうとした。
そのとき。
『……どなた……?』
泉の中にいた彼女から、声がかけられた。
アレクがそれまで聴いたこともない、美しい楽器の音のようだった。
『す、すみません!
のぞく気はなかったんです!』
精霊相手に、言い逃れはできないだろう。
アレクは素直に謝った。
腰を深く折って、頭を下げる。
すると、優しい笑い声が、彼の耳に届いた。