恋するマジックアワー(仮)

見ると、すでにキッチンカウンターに洸さんの姿があった。


ど、どうしよう……。
お弁当、作らなくちゃ……。


いいんだよね?



そーっと静かに扉を開けて、足を滑り込ませた。

て、そこに洸さんがいるからこんな事してもどーせバレちゃうんだけど。



「……。おはようございます」



意を決して自分から声をかけた。

湯気が立ち上るコーヒーカップに口をつけていた洸さんが、視線だけを向けた。



その手元には新聞が広げられてる。

洸さんは、あたしがいた事なんかすっかり忘れてたみたいに、目を丸くした。


……え?あたしの事覚えてない?


昨日ここで初めて会ったあの時のように、その眉間にシワを寄せた洸さん。

あたし……と言うか、この制服を見てる気が……。



「洸さん?」

「……」


返事もしてくれない……。
昨日、よろしくってそう言ったのは、洸さんの方なのに。



「……、あの台所、使ってもいいですか?お弁当作りたくて」



オズオズと歩み出ると、そこでやっと洸さんは「どうぞ」って頷いてくれた。



< 21 / 222 >

この作品をシェア

pagetop