だから、恋なんて。
ほんのりと照らされた庭園が目の前に広がる静かな個室。
重厚なテーブルの上に並べられた色とりどりの懐石料理……の残骸。
と、すでに空になった徳利やグラス。
「今さらですけど……や、やっぱり、高そうですよね」
今夜の主役であるはずの雫は、散々飲み食いしてから居心地が悪そうに視線をさまよわす。
「大したことないって。私たちもう四十路だよ、四十路。こういうお店も立派に似合う歳じゃない?」
「だから、私はまだ三十五ですって」
「うん、今日までね。明日には三十六になるでしょ?」
「う……そうですけど」
恨めしそうに私たちを交互に見ながら、くいっとお猪口をあおる。