だから、恋なんて。

それを見ながらクスリと笑うのは右隣でワイングラスに口を付けている松永 雫(まつなが しずく)。

こちらは対照的に顔色も耳の色も、なんなら胸元の開いた服からのぞく鎖骨辺りだって何の変化もなく、酔っぱらいの片鱗なんてこれっぽっちも見せてない。というか、これっぽっちのお酒じゃ酔ってないのかも。

「少々お待ちください」と一礼して引き上げるギャルソンの背中を振り返ってまで見送る千鶴は、私たちの注意を引くように手をチョイチョイと手招きする。

「ちょっと、なかなかのイケメンじゃなかった?どう、雫?どう、美咲?」

「…声おっきいです」

「だね、恥ずかしいったらないわ。いいのー、千鶴?そんなに酔っ払って帰ると旦那が心配するんじゃない?」

「そうですよ。もうワインはやめて、コーヒーとかにしません?」

「やめてよ、旦那の話なんか。今日は独身気分を満喫したいんだから。それより
美咲、四十路の記念にあのギャルソンに連絡先聞いてみなよ」

愉しそうに笑う千鶴は、ワイングラスを口に付けながら無茶なことをふっかける。

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