ドライアイス
1、出会い
「陽菜は体が弱いから」

私が小さい頃、ママは口癖のように言っていた。
実際、私はすぐに熱を出す子どもだった。
発熱の度に、パパが車で病院へ運んでくれた。
ママは寝ずに看病を続けてくれた。
ママとパパは、私の体が少しでも丈夫に育ちますように、という願いを込めて、突然切り出してきたの。

「陽菜、今日から空手を習いに行くのよ」

まだ幼稚園に通っていた私には、空手というものが何なのか理解できていなかった。
安直な私は、先のことなんて考えず、パパとママの意見に賛成した。
後悔したのは、空手の道場に足を運んだ瞬間だった。
大人たちが真っ白い道着を身に着け、汗を流しながら大声で叫んでいる。
気迫に負けるとはまさにこのこと。
まだ小さな私は、圧倒されて言葉も出なかった。

「福山陽菜さん?」

声をかけてきたのは、大声で全員に指示を出していた人。
パパやママよりもずっとシワが多いのに、目をみはるほど筋肉がついている。
大人たちから「師範」と呼ばれているその人は、私に微笑みながら残酷な言葉を発した。

「道着、持ってきたよね?着替える場所があるから、着替えてきて。その後で、稽古に入るから」

笑顔だけは爽やかなのに、言っていることはむごい。
大人ばかりの暑苦しい部屋の中で、「オス!!」なんて言わなきゃいけないの?
絶望に浸る私の肩を叩いたママは、更に私を追い詰めた。

「陽菜、頑張って耐えるのよ?」

ママ、あんまりよ。。。
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