ドライアイス

2、距離

赤に近い茶色の髪の毛。
耳にはピアスの穴が数カ所に開けられている。
背丈は170cmを余裕で超えていたから、威圧感がたっぷりの印象。
高校三年生の春。
リュウの耳には、またひとつピアスの穴が増えたような気がした。

「リュウ、おは……」

挨拶をかわそうとした私は、言葉を飲み込んだ。
リュウが、私の友人である愛と腕を組んで歩いていたから。
高校に進学してから、リュウは不特定多数の女の子と付き合うようになった。

リュウの顔から、笑顔が消えたことを知っている。
何故、笑顔が消えてしまったのかも知っている。
リュウの両親は、中学三年生の頃に離婚した。
リュウの母親の浮気が原因だった。
リュウは、自宅で何度か浮気現場を目撃している。
そして、父親と母親が繰り広げる喧嘩を、毎日聞かされてきたのだ。
離婚成立後、リュウは変わってしまった。
空手家に相応しくない私服を着るようになったし、ピアスの穴も開けるようになった。
髪の毛は明るく染められ、今では赤に近い茶色。
その頃から、多くの女性と関係を持つようになった。
そして、私とリュウの間に、会話らしいものが消えてしまった。

覚えてる?
りんご飴をくれたあの日のこと。
リュウは意地悪だけど、本当は優しい人だよね。
そんなリュウの心は、凍りついてしまった。
私の力では、溶かすことなどできないのかな?
リュウ、今あなたは、何を考えているの?
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