山神様にお願い


 今日は、山神の日だった。

 メンバーは、店長と龍さんとウマ君と私。いつもの通りの夜だった。

 5時に入り、挨拶をして、開店準備をしてお客さんを迎える。最初の飲み物をきいて、注文を改めてとり、突き出しと飲み物を運ぶ。

 一人でのお客さんとは軽い世間話をする。天気の話だとか、学校の話だとか。新聞記事の一面の話だとか。

 賄いを森で食べて、キッチンの洗い場で皿を洗う。ビールの補充。

 店長に弄られ龍さんに怒鳴られウマ君に笑われて、閉店までを過ごした。

 お客さんとの会話も弾み、何度も笑った。閉店後は一杯のビールを頂いて、山神様に手を合わせて帰る。

 まったく、いつもの夜だ。

 なのに何が不満なのか、私はシャワーも浴びないで、こうしてベッドに寝転んでいる。

 ・・・いや、判ってるんですけどね。何が不満か、だってさ。まったく、もう。

 原因は店長だ。

 あの夏の海岸で、私を下敷きにしてキスを迫った店長は、それから今日にかけて、まーったく、何のモーションもかけてこないのだ。

 つまり、店長の態度ですらいつもの通り。

 実際のところ、金曜日に阪上家に家庭教師を辞める旨を伝え、お母さんに見送られて家を出た時から、ずっと私は緊張していたのだ。



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