山神様にお願い


「俺が緑好きなんだよね。オーナーが2階は完全に好きにしていいって言ったから、こんなんになったんだよ。植物は大切にしてるから気をつけてね、傷がすぐついちゃうんだよ」

「あ、はい」

 私は腕にひっついていきていたアイビーのつたからそっと離れる。

 植物好きもほどがあるでしょ、そう思うくらいの量だった。小さな部屋はまるで植物園だ。

 私が部屋を見回していると、店長さんは腰に手を当ててサラサラと説明した。

「ここが従業員の部屋。ここで休憩したり、賄い食べたり、着替えたりする。うちは俺と厨房の人、それと学生バイト1人で男子が3人、君と、他に3年目のバイトの子で女の子が二人。皆ここで着替えるし、見ての通りにドアがないから、階段上る前に誰か着替えてないか下から声かけてね」

「はい」

「じゃ、着替えてから降りてきてー」

「はい」

 鞄を下に置くのは事故防止なんだろうな、そう思いながら、まるで林か森にいるような風景の中で黒いTシャツに着替える。

 自分の服を畳んで下に下りていった。

「鹿倉さん、紹介するよー」

 服を鞄にしまって体を起こすと、夕波さんがもう一人の男性を指した。

 キッチンの中に立っていたその男性は、茶色の肩までの髪を後ろでゴムで縛っていて、耳にはピアスが3つもついている。その小さな輪のピアスは綺麗なブルーで、キッチンの照明の下でやたらと目立った。


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