山神様にお願い


「虎さんより龍さんのが年上で、ここの前の店からいるから実質ボスは龍さんなのよ。管理も口も虎さんの方が上手いのは周知の事実だから、店長が虎さんなのは正解だけどさ~」

 彼女はベラベラと続けるけど、私のキャパはアッサリ限界を超えていた。ちょっと待って、全然理解追いつかないんですけどー?

 頭をガンガンと金槌かなんかでぶん殴りたい気分だ。そうすれば、ちったあスッキリするかも、と考えて。

 瞼をぐっと人差し指で押さえる。

 リュウとかトラとか、そんな呼び方じゃ判らないよ~!

 何だか今日はこの店に来てからずっと、口があいたままのような気がする。でもきっとそうなんだろう。私は驚いてばかりで、自分の中の「常識」と書かれた標識がベリべりとはがれていくのを感じていた。

 彼女の言葉が切れたので、私は頭の中を整理しながら言葉を押し出す。

 とりあえず、この店の採用理由はかなり変わった基準らしい。応募者の名前に動物が――――――

「・・・ということは、私は・・・」

「鹿倉で、鹿ね。お名前がひばりさんだったでしょう?それで、鹿かひばりかどっちになるんだろうってバイト同士で賭けてたんだけど・・・。さっき虎さんがシカになったって言ってたから」

 ケラケラと笑っている。もう一人のバイト君は、冬馬君で馬だよ~!だって。

 私は片手で額を押さえてぐったりと肘をテーブルについた。・・・なんてことだ!じゃあ、もしかして―――――・・・

「・・・面接の応募電話で、採用決まってたんですか?」


< 29 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop