山神様にお願い


 信仰?そういう宗教があるのかな?若干不安になりながら、言われたことを反芻する。ここの店の名前も、山神だな、そういえば。

「そう、神様。うーん・・・無理やり言えば、神道にあたるのかな。そんなことを考えたことはないんだけどね」

「はあ」

 私が店長を見上げると、彼は簡単にうんと頷く。

「日本には、古来から全てのものに神が宿るといわれてきた。万物には神様がいるって考え方だね。で、俺は山が好きなんだよね。それこそ小さい頃からね」

「・・・はあ」

 私が曖昧に頷くと、龍さんが空になったジョッキを運びながら説明を始めた。

「虎は小さな頃から一人で山遊びをしてたんだとよ。それで、山や森の神様たちの存在を信じるようになった。話せるんだとよ、山神様と。居酒屋も、山神様のご信託らしいぞ」

「・・・はあ」

 私の隣でツルさんが苦笑する。

「あははは、ついていけないって顔してるよ、シカちゃん。まあ無理もないよね。ちょっと突拍子もない話だし。私も最初は変に思ってた~」

「え、そうだったんだ、ツルってば」

 店長が情けない顔になって言う。あははは~と軽やかに、ツルさんが笑って両手を合わせる。

「だって、無理ですよ~。いきなり山神様だなんて、ねえ?」

 ツルさんの言葉に私は正直に頷いてしまう。


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